Claude Codeへの「興奮の質」は、人によって2種類に分かれる——SE歴26年の私がそれに気づいたときの話だ。
フィードにこんな投稿が流れてきたことはないだろうか。
ターミナルを8分割にしてスクリーンショットを撮ったもの。「7案件並行中!🔥」というキャプション付きで。あるいは、「タクシーの中でもバイブコーディング、止まらない」という一文。
見た瞬間に感じる、何か『置いていかれる』ような、微妙な感覚。
否定したいわけではない。でも、何かが引っかかる。
私も最初はClaude Codeに同じように興奮していた
正直に言う。Claude Codeを使い始めた頃、私も似たような興奮をしていた。
「これだけのことが、自分一人でできてしまう」という驚き。ターミナルが動き、コードが生まれ、タスクが完了する様子を眺めながら、「自分がすごい何かをやっている感覚」がたしかにあった。
だから、派手なアピール投稿をする人たちを頭から否定する気にはなれない。あれはおそらく、その興奮の正直な表現なのだと思う。
ただ、私の興奮はいつの間にか、少し別の方向へ変わっていった。
Claude Codeに「安定・自律・進化」を求めるようになった
「7案件並行うぇーい」ではなく、最近の私が思っていることはこんなことだ。
安定して動いてほしい。 自律的に改善してほしい。 進化してほしい。
投稿映えしない。数字で表しにくい。それでも、私の「Claude Code観」はここに行き着いている。
部下に期待するような感覚、と言えば近い。
これ、部下を持ったときと同じ感情の流れだ
SE歴26年の間に、私は何人かの部下やチームメンバーと仕事をしてきた。新しいメンバーが入ったとき、最初は「何でもやらせたい」と思う。その人のポテンシャルへの期待が、興奮として出てくる。
でも数週間経つと、変わってくる。
「安定して動いてほしい」になる。「自律的に改善してほしい」になる。そして何年も一緒に仕事をすると、「この人自身が成長してほしい」という感情に変わっていく。
Claude Codeへの感情が、そのまま同じ経路をたどっていた。
「え、AIに対して?」と思うかもしれない。でも私の中では自然な変化だった。使いこなすというより、育てるという感覚に近い。コードを一行も書けない私にとって、AIを「自分の能力の延長」として見るのではなく、「動いてほしいチームのメンバー」として見るほうが、ずっとしっくりきたのだ。
興奮の質が違う——「自分への興奮」と「対象への興奮」
ここで整理したいのは、興奮には2種類あるということだ。
自分への興奮とは、「俺がこれだけのことをやっている」という承認欲求ベースの高揚感。SNSに投稿されやすいのはこちらだ。数字が出しやすい。映える。「7案件」「タクシーでも」という情報は、承認を得やすい形式をしている。
対象への興奮とは、「AIがここまでできるのか」という敬嘆ベースの高揚感。こちらはSNSに投稿しにくい。見せ方が難しい。スクリーンショットを撮っても「だから何?」になる。
私が最近感じているのは、後者だ。
重要なのは、後者の興奮には「敬意」が入っているということだ。「すごいな、こいつ」という感情がないと、「進化してほしい」という言葉は出てこない。
Claude Codeのなぞかけ生成で感動した理由
具体的な話をしよう。
私は個人的にClaude Codeで /nazo というコマンドを作っている。いわゆる「なぞかけ」を生成するスキルだ(/todoと同じような仕組みで動く)。「夜寝る前のウイスキー」というお題でコマンドを実行してみると、こんな返答が来た。
「夜寝る前のウイスキー」とかけまして、「優れた俳句」と解く。 その心は、「短い『ひとくち(一句)』に、長い余韻があるでしょう」
笑った。いや、正確には、感動した。
なぞかけというのは、同音異義の発見と、意外性のある共通点の提示と、余韻を残す言い回しの3つが揃わないと成立しない。私はかつて大学院で自然言語処理を研究していたから、その難しさを少しだけ知っている。20年前なら不可能だったことが、今、私の手元で起きている。
この体験をSNSで「すごいでしょ」と言いたいのではない。私が面白いと思っているのは、「これを面白いと思える構造が私の中にある」という事実のほうだ。
業界の記事は「興奮段階」で止まっている
SNSや技術ブログに溢れるClaude Code系の記事を読んでいると、圧倒的多数が「興奮段階」で書かれている。
どれだけの速さで、どれだけの量を、どれだけのコストで——そういう軸の話が多い。それは間違っていない。でも「育てる景色」を語っている記事は、ほとんど見当たらない。
「AIとどんな関係を結んでいるか」という話が出てこない。
なぜかといえば、映えないからだと思う。投稿が得る反応は、驚きと羨望だ。「7案件並行」は驚きと羨望を引き出せる。「安定して動いてほしいと思うようになった」は引き出せない。
だから、業界の情報流通が「興奮段階」に偏るのは、ある意味合理的な結果だ。でもそれが、本当の景色ではないかもしれない。
「コードを書けない私」だからこそ、この視点になった
少し逆説的なことを言う。
私がこの視点に至ったのは、コードを書けないからかもしれない。
コードが書けるエンジニアにとって、AIは「自分の能力を増幅するツール」として自然にマッピングされる。「俺のコーディングがもっと速くなる」という軸が最初にくる。そうなると、興奮は必然的に「自分への興奮」になりやすい。
私にはそのマッピングができない。だから最初から、AIを「動いてもらう存在」として見るしかなかった。それが逆に、「育てる感覚」につながったのではないかと思っている。
「コードを書けないのにエンジニアと名乗っていいのか」という問いは、26年間時々浮かんでくる。でも今は少し違う見方をしている。「コードを書く能力」が定義するのはエンジニアリングの一形態であって、「問題を解決する構造を設計する能力」は別の話だと思っている。AIが間に入ることで、その2つの距離が急速に縮まっている。
コードを書けない人が、AIを「育てる」感覚を持ったとき
あなたのClaude Codeへの興奮は、今どちらにいるだろうか。
「これだけのことが自分にできる」という興奮は、入口として正しい。私もそこを通った。
でも、そこで止まる必要はない。
「このAIが、もっとよくなってほしい」という感情に変わったとき、使い方もたぶん変わってくる。焦って量を増やすのではなく、ゆっくり質を育てる方向に。
「興奮段階」のコンテンツに疲れを感じている人が、もしいるなら——同じ景色を見ている人は、ちゃんといると思う。
そして、もしあなたがコードを書けない側の人間なら、この感覚はかえって届きやすいかもしれない。「使い倒す道具」として見るマッピングがそもそもないから、最初から「育てる相手」としてAIに向き合える。入口はChatGPTでも、Claudeでも、何でもいい。「指示する」より「育てる」と思って話しかけてみるだけで、見える景色は変わってくる。
Claude Codeとコードを書けないSEへのよくある質問
Q. SE歴26年だからできたんじゃないですか?
始めた頃、私がやっていたのは「日本語でClaudeに話しかける」だけだった。コードを書く必要はない。最小構成は「Claude Codeをインストールして、プロジェクトのフォルダを開いて、何をやりたいか話しかける」それだけだ。SE歴は関係ない——というより、最初は邪魔だった(「こんな簡単なもので本当にいいのか」という余計な疑いが出てくるので)。
Q. 7案件並行している人を羨ましいと思っているだけでは?
最初はそう見えるかもしれない。でも私が違和感を覚えているのは「量の多さ」ではなく「量だけがアピールポイントになっている構造」の話だ。7案件並行している人が「AIを育てる感覚」を持っていないとは言っていない。
Q. 結局、Claude信者の自分語りでは?
私がClaude Codeを面白いと思う根拠の一つは、大学院でNLPを研究していた経験だ。「なぞかけが難しい理由」を知っているから、「それができること」への敬意が生まれる。信仰ではなく、難しさを知っているから驚いている。
Q. コードを書けないのにエンジニアを名乗っていいんですか?
「問題を解決する構造を設計する能力」と「コードを書く能力」は別の話だと思っている。AIが間に入ることで、その2つの距離は急速に縮まっている。
コードを書かずにClaude Codeを使う関連記事
このブログのメインテーマは「コードを書けない私がClaude Codeでどう動いているか」だ。この記事で触れた話の周辺にいくつか記事を書いている。
- SE歴26年、初めての部下はAIだった — マネジメント経験が「AIを育てる視点」になった話
- AIにAIの書いた文章を批評させたら60点だった話 — AIを「評価する側」に置いたときに何が起きたか
- コードを1行も書かずに、AIエージェント編集部を作った話 — 「育てる」を実装に落としたとき、何が起きたか
- Claude Code の憲法を書いたら、1日で法律になった話 — AIとのルール設計という別の角度の話
この記事を書いた人について
コードを書けないSEが、Claude Codeだけでブログ・タスク管理・書籍執筆をしている実験記録を書いています。
Zenn Book(¥900 / 序章・第1部無料)
SE歴26年がAIエージェント組織を作った10日間の実践記録。「育てる感覚」のベースになっている思考と実装を書いた本です。
自作ツール: /todo(MIT・無料)
Claude Code上でGTDを回すタスク管理スキル。GitHubで公開中。
Claude Code関連書籍(入門〜実践)
もしClaude Codeを本格的に学びたいなら、書籍も出ています(私が書いたものではありません)。
※この記事にはAmazonアソシエイトのアフィリエイトリンクが含まれます。Amazonのアソシエイトとして、当ブログは適格販売により収入を得ています。
この記事のテーマを深掘りした本
コードを書けない私がClaude Codeで「AIチーム」を作るまで コードを書かないSEが9体のAIエージェント編集部を作るまでの実録(序章・第1部無料)
シリーズ全6冊: Vol.1 作るまで / Vol.2 回すまで / Vol.3 書き続けるまで / Vol.4 仕組みを渡すまで / Vol.5 仕事を任せるまで / Vol.6 1人エージェントチーム